手打ち蕎麦・のし論 Ⅰ

そばを打つ工程のなかで、一番長時間に及ぶのが、この「のし」の工程です。「のし」とは、文字通り「均一にのす」ことです。全く地味なプロセスです。多くの人がのしにストレスを感じるのは、失敗すると麺帯を破いてしまい、その姿がとても悲惨だからです。つまり、失敗が目に見えて解るからでしょう。そのため、初心者の頃は、麺帯を破いてしまうというリスクを避けるために、適切な力を与えることが出来ずに、結局満足に麺帯をのすことなく終了してしまうという悪循環に陥りがちです。この意識こそが、「意に反した太い蕎麦」にしてしまう最大の原因だそうです。
興味深いことに、のしのコツをつかみはじめる中級の段階になってくると、逆に強引な力でのし続け、特に麺帯の端のほうを極限まで薄くしようとします。
外形の四角や円形ばかりに気をとられ、全体の厚みムラを整えずに良しとしてしまうのも、この中級レベルの傾向です。その結果、途中のプロセスで丸や四角が「はた目からは」正確にきれいに出るようになります。打っている姿が見違えるほど格好良くなり、「のし」まではご自分の姿にうっとりと心酔できるのも、中級者の特徴です。
しかし、この直後、畳んで切る段階を迎えると、中級者は上級者やプロの腕前と自分のそばの間には、いまだ大きな隔たりがあるという現実に直面してしまうのです。
中級者の方は、皆さん口をそろえて庖丁の技術をもっと上げたいといいます。
切った麺が、太かったり、細かったり、まちまちになってしまうことを改善したいと思っています。でも、ちょっと待ってください。あなたがのした麺帯は、本当にむらなくしっかりとのせていますか?もしも、のした結果が均一になっていなければ、いかに同じ幅で切っても同じ太さの麺にはならないのです。これは、当然のことですが、案外見落とされがちなポイントです。
麺線をきちんと揃えることは、とても大事なポイントです。夢々、「手打ちだから、太さにムラが有るのが魅力なのである」というたぐいの、自分の技術力の低さを合理化するために発せられる、愚にもつかない詭弁には耳を傾けないことです。そばは、均一に切れているからこそ、適切な時間でしっかりと茹でられるのです。麺の均一さは、単に見映えだけの問題ではなく、味や食感に重大な影響をおよぼす要素であるということを、認識しましょう。のしの精度は、とりもなおさず、その麺の品質に直結しているというわけです。

最終更新日:2012年10月22日

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